信託監督人・受益者代理人は要るか 信託法131条・138条の選任方法と報酬、家族信託で置く場面
信託監督人と受益者代理人は、どちらも置くことが法律で義務づけられているわけではありません。信託法第131条は、受益者が現にいる場合に、信託行為(信託契約など)で信託監督人となる人を指定できると定めています。第138条は、同じく信託行為で、受益者代理人となる人を指定できると定めています。
置くかどうかは、受益者が自分で受託者を見張れるかで考えます。親が受益者で判断力が十分にあるうちは、置かない設計もあります。受益者が認知症などで権利を行使しにくい場合に、検討する役割です。この記事は一般的な情報です。個別の判断は司法書士や弁護士などの専門家にご相談ください。内容は2026年11月4日に確認しました。
信託監督人は、受託者を見張る役

信託監督人は、受益者のために受託者の仕事を監督する人です。第131条は、受益者が現に存する場合に、信託行為で指定できるとしています。受益者がまだ存在しない場合に置く「信託管理人」(第123条)とは、場面が違います。
権限は第132条にあります。信託監督人は、受益者のために、自分の名で、受益者の権利に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を持ちます。ここでいう権利は、第92条の各号に挙がるものです。たとえば、受託者に信託事務の処理状況の報告を求める権利(第36条)や、帳簿などの閲覧を請求する権利(第38条)が含まれます。ただし、受益権の放棄など一部の権利は除かれ、信託行為に別の定めがあればそちらに従います。
義務は第133条です。善良な管理者の注意をもって権限を行使し、受益者のために誠実かつ公平に行います。
なれない人は、第137条が準用する第124条で決まっています。未成年者と、その信託の受託者です。受託者が自分を監督することはできません。
受益者代理人は、受益者に代わって権利を行使する役

受益者代理人は、受益者に代わって受益者の権利を行使する人です。第138条は、信託行為で、代理する受益者を定めて指定できるとしています。権限は第139条第1項で、代理する受益者の権利に関する一切の裁判上・裁判外の行為です。信託行為に別の定めがあれば、それに従います。
注意したいのは、第139条第4項です。受益者代理人がいるときは、代理される受益者は、第92条各号の権利と信託行為で定めた権利を除き、自分では権利を行使できません。受益者本人の権利が、代理人に移る形です。本人が判断できるうちに置くと、本人の意思が通りにくくなる場合があります。置く時期と範囲は、契約書で決めておきます。
なれない人は信託監督人と同じで、未成年者と受託者です(第144条が第124条を準用)。
表は左右に動かして読めます。
| 項目 | 信託監督人 | 受益者代理人 |
|---|---|---|
| 条文 | 第131条〜第137条 | 第138条〜第144条 |
| 役割 | 受益者のために受託者を監督する | 受益者に代わって権利を行使する |
| 受益者本人の権利 | 本人も行使できる | 第92条各号の権利などを除き、本人は行使できない(第139条第4項) |
| 選任の方法 | 信託行為で指定。特別の事情があれば裁判所も選任できる | 信託行為で指定 |
| なれない人 | 未成年者、その信託の受託者 | 未成年者、その信託の受託者 |
信託管理人は、受益者が現にいない場合に置く役です。たとえば、子の誕生を待って受益者にする信託などで問題になります。ここでは、受益者がいる場合の2つに絞って説明しています。
選任の方法と報酬

選任の方法は2つあります。
- 信託行為で指定する(第131条第1項、第138条第1項)。指定された人には、利害関係人が相当の期間を定めて、就任を承諾するか確答を求められます。期間内に委託者(委託者がいなければ受託者)へ答えないと、承諾しなかったものとみなされます(第131条第2項・第3項、第138条第2項・第3項)。
- 裁判所が選任する(信託監督人のみ)。第131条第4項は、受益者が受託者の監督を適切に行えない特別の事情があり、信託行為に定めがないか、指定された人が就任しない場合に、利害関係人の申立てで裁判所が選任できるとしています。第138条には、裁判所が受益者代理人を選任する規定は見当たりません。
裁判所が選任する場合の申立先や費用は、今回の資料では確かめられませんでした。必要になったときは、裁判所か専門家に確かめてください。
報酬については、信託法にルールがあります。第137条と第144条は、信託管理人の費用と報酬の第127条を準用しています。
- 費用: 事務の処理に必要な費用は、受託者に請求できます。
- 報酬: 商法第512条の適用がある場合のほか、信託行為に報酬を受ける旨の定めがあるときに限り、受託者に請求できます。
- 額: 信託行為に額や算定方法の定めがあればそれに従い、なければ相当の額です。
- 支払い: 受託者は、信託財産に属する財産のみで履行する責任を負います(第127条第4項)。
- 裁判所が信託監督人を選任した場合は、裁判所が報酬を定められます(第127条第6項。第137条の読替えによる)。
つまり、親族に頼む場合でも、報酬を払うなら契約書に定めがなければなりません。専門家の報酬の相場は、今回開いた資料では確かめられなかったため書きません。依頼先から見積りをもらってください。
任務の終了は、第134条と第141条が、受託者の任務の終了の規定(第56条)などを準用しています。信託監督人による事務の処理は、委託者と受益者の合意か、信託行為で定めた事由でも終わります(第136条)。後任の選任の方法も、契約書で決めておくと安心です。
家族信託で置く場面と置かない場面

置くべきかどうかは、法律に基準があるわけではありません。ここからは、条文を踏まえた考え方の整理で、決まりではありません。判断は専門家と契約書を作る段階で行います。
置かない場面の例は、次のようなときです。
- 受益者が委託者本人で、判断力が十分にある。第36条は受益者が受託者に報告を求められると定め、第38条は帳簿の閲覧を請求できると定めています。本人が自分で確かめられます。
- 受託者の仕事の範囲が小さく、財産の種類が少ない。
- 報酬の負担が重く、親族が互いに見守れる体制がある。
置くかどうかを検討する場面の例は、次のようなときです。
- 受益者が認知症などで、報告の確認や閲覧の請求を実際にはできない。この場合、受益者代理人が権利を行使する形が考えられます。
- 受託者の仕事を第三者の目でも確かめたい。信託監督人を専門職に頼む形が考えられます。
- 受益者が未成年や遠方にいて、日常の確認が難しい。
- 受託者が1人の親族に集中している。
受益者代理人を置くと、第139条第4項により、本人は多くの権利を自分では行使できなくなります。判断力がまだあるうちに置くなら、効力が出る時期を契約書で調整する方法を専門家に確かめます。
不動産を信託する場合の登記にも関係があります。不動産登記法第97条は、信託の登記の登記事項として、信託管理人と受益者代理人があるときはその氏名と住所を挙げています。受益者代理人を登記したときは、その人が代理する受益者の氏名と住所は登記しなくてよいとされています(第97条第2項)。信託監督人は、同条に項目としては挙がっていません。登記の扱いは司法書士に確かめます。
契約書で決めておくことと、相談先

置くと決めたら、契約書に次を書いておきます。
- 誰がなるか(親族か、司法書士・弁護士などの専門職か)。受託者との兼任はできません。
- 就任の承諾の方法と、後任を決める方法
- 報酬の有無、額、または算定方法。費用の負担
- 権限の範囲(法律の定めと違う範囲にするとき)
- 任務が終わる事由
家族信託全体の流れは家族信託の始め方の記事、費用は費用の内訳の記事で説明しています。受託者の義務は受託者がすること、受託者が務められなくなった場合は受託者の交代の記事、成年後見との違いは成年後見との違いの記事を見てください。
相談先は、司法書士、弁護士、信託に対応する金融機関などがあります。公正証書にする場合は公証役場も窓口になります。誰を監督人や代理人にするかは、将来の本人の暮らしに関わります。契約書を作る前に、家族で話し合い、複数の専門家の説明を聞いて比べてください。
出典
- 信託法(e-Gov法令検索・第36条、第38条、第92条、第123条〜第144条) https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- 不動産登記法(e-Gov法令検索・第97条) https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
いずれも2026年11月4日に確認しました。法令の条文のほか、専門職の報酬の相場や裁判所の申立ての費用は、一次資料で確かめられなかったため書いていません。