家族信託の手引き

家族信託とは 親が認知症になる前に決めておく財産管理のしくみ

内容の確認日: 2026年11月3日

家族信託は、親が自分の財産の管理や処分を子などの家族に託す契約です。法律に「家族信託」という言葉はなく、信託法の信託契約を家族の間で結ぶ使い方を指します。契約を結ぶと、託した不動産やお金は託された家族の名義で管理されます。親が認知症になっても、託された家族が契約の範囲で財産を管理し、必要なら売却もできます。

この契約を結べるのは、親に判断能力があるうちだけです。全国銀行協会は、預金の払い出しには本人の意思確認が要り、家族でも払い出せないと説明しています。口座が動かせなくなってからでは、家族信託は間に合いません。この記事は一般的な情報です。個別の判断は司法書士や弁護士、税理士などの専門家にご相談ください。内容は2026年11月3日に確認しました。

家族信託は信託法の「信託契約」を家族で結ぶもの

信託法2条1項は、信託を「特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分」などをするものと定めています。財産を託す人と、託されて管理する人がいて、目的に沿って財産を動かす仕組みです。

石を載せた板葺き屋根の古い木造民家
写真: タクナワン / CC0(Wikimedia Commons)

信託法3条は、信託の方法を3つ挙げています。契約による方法、遺言による方法、自分の財産を自分が受託者として管理すると公正証書などで宣言する方法です。家族信託でふつう使うのは、1つめの信託契約です。

信託契約は、財産を託す人と託される人が契約を結んだ時に効力が生じます(信託法4条1項)。遺言のように亡くなるまで待つ必要はありません。契約した日から、託された家族が財産の管理を始めます。

日本郵便の解説コラムは、典型的な形をこう説明しています。親が子との間で信託契約を結び、子が親のために財産を管理する。家賃や利息などの利益は親が受け取る。この形を前提に、以下で役割を整理します。

委託者・受託者・受益者の役割

家族信託には3つの立場があります。信託法2条の定義と、家族信託でよくある例を並べます。

並木道の両側に戸建て住宅が並ぶ住宅地
写真: Peka / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

表は左右に動かして読めます。

立場信託法の定義よくある例
委託者信託をする者(2条4項)財産を持つ親
受託者信託行為に従い財産の管理・処分などをする義務を負う者(2条5項)子
受益者受益権を持つ者(2条6項)親(委託者と同じ人)

受益権とは、受託者に財産の引渡しなどを求める権利です(2条7項)。親が委託者と受益者を兼ねる形なら、財産から生まれる利益は今までどおり親が受け取ります。この形の税金の扱いは家族信託の税金と毎年の届出で説明しています。

受託者には、信託法でいくつもの義務が課されます。

  • 信託の目的に従い、善良な管理者の注意で事務を処理する(29条)
  • 受益者のために忠実に事務を処理する(30条)
  • 信託財産を自分の財産と分けて管理する(34条)
  • 帳簿を作り、毎年1回、貸借対照表などを作って受益者に報告する(37条)

未成年者は受託者になれません(7条)。受託者は親の財産を預かる重い役目です。誰に任せるかは、家族でよく話し合って決めます。

信託できる財産と向かない財産

信託法は、信託できる財産の種類を一覧にしていません。信託財産は「受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産」と定められています(2条3項)。家族信託では、金銭や自宅などの不動産を託す形がよく紹介されています。

銀行のATMコーナーに並ぶ現金自動預け払い機
写真: Rebirth10 / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

ただし、ほかの法律で移転が制限される財産があります。

  • 農地: 農地法3条2項3号は、信託の引受けによって農地の権利を取得する場合、原則として許可できないと定めています。農業協同組合が行う一部の事業などの例外があります。
  • 年金: 国民年金法24条は、年金を受ける権利を譲り渡せないと定めています。受給権そのものは託せません。

不動産は、信託の登記をしないと信託財産であることを第三者に主張できません(信託法14条)。金銭は、計算を明らかにする方法で受託者自身のお金と分けて管理します(34条1項2号ロ)。実際には、信託専用の「信託口口座」を使う方法が紹介されています。ゆうちょ銀行ではこの口座を開けないと、日本郵便の解説コラムに書かれています。登記と口座の手順は家族信託の始め方にまとめました。

受託者が売却や管理をできる範囲

受託者は、信託財産の管理や処分など、信託の目的の達成に必要な行為をする権限を持ちます(信託法26条)。ただし同じ条文で、信託行為によって権限に制限を加えてよいとされています。何をどこまで任せるかは、契約で決めます。

格子窓のある和風の木造2階建て住宅
写真: Tyuvc / CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)

契約に書いておく項目には、たとえば次のようなものがあります。

  • 自宅を売ってよいか。売るなら、どんな場合か
  • 空き家になった自宅を貸してよいか
  • 建物の修繕や建て替えをしてよいか
  • 預かったお金を何に使ってよいか(生活費、医療費、施設の費用など)

権限を広く書けば、受託者は状況に合わせて動けます。反対に、売却を禁じるなど制限を書くこともできます。いずれの場合も、受託者は信託の目的に従い、受益者のために事務を処理する義務を負います(29条、30条)。

成年後見との違いもここに出ます。成年後見人が本人の自宅を売るには、家庭裁判所の許可が要ります(民法859条の3)。信託法には、受託者が売却するときに家庭裁判所の許可を求める規定はありません。くわしい比較は家族信託と成年後見・任意後見・遺言の違いで扱っています。

判断能力があるうちにしか結べない

民法3条の2は、意思表示をした時に意思能力がなかった法律行為を無効としています。信託契約も法律行為です。親の判断能力が失われた後に結んだ契約は、効力が認められないおそれがあります。

石造りの柱が並ぶ盛岡信用金庫本店の建物
写真: Daderot / CC0(Wikimedia Commons)

預金の扱いも、判断能力が低下すると難しくなります。全国銀行協会が2021年2月に公表した考え方は、次のように整理しています。

  • 預金を払い出すには本人の意思確認が必要で、家族でも払い出せない
  • 判断能力が低下した顧客については、親族に成年後見制度の利用を促すのが一般的
  • 後見制度を使っていない親族からの依頼に応じるのは、本人の医療費の支払いなど本人の利益に合うことが明らかな場合に限る、極めて限定的な対応

家族信託の契約は、こうなる前に結んでおく必要があります。不動産の信託登記や信託口口座の開設にも、委託者である親の協力が要ります。

信託をいつ終わらせるかと、終わった後に財産を誰に渡すかも、契約で決めます。信託は、契約で定めた事由が生じたときなどに終了します(163条)。委託者と受益者は、合意でいつでも信託を終了できます(164条1項)。残った財産は、契約で指定した人に帰属します(182条1項)。指定がないときは、委託者やその相続人を帰属権利者に指定する定めがあったものとみなされます(182条2項)。

親の年齢や財産の内容によって、向く組み方は変わります。家族だけで決めきれないときは、家族信託を扱う司法書士や弁護士、相談窓口に早めに相談すると進めやすくなります。

出典

いずれも2026年11月3日に確認しました。

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