家族信託の受託者が亡くなったら・務められなくなったら 信託法56条62条と後継受託者、信託口口座・登記の変更
家族信託の受託者が亡くなっても、信託は続きます。信託法56条1項1号により、受託者である個人が死亡すると、その人の受託者としての任務が終わります。信託そのものは終わりません。次の受託者が決まって就任し、財産と権利義務が引き継がれます。
次の受託者は、信託契約に書いてあればその人が候補になり、書いていなければ委託者と受益者が合意で選びます(信託法62条)。受託者が欠けた状態が1年続くと信託は終わるため、早めに動きます。この記事は一般的な情報です。個別の判断は弁護士や司法書士などの専門家にご相談ください。内容は2026年11月4日に確認しました。
受託者の任務が終わる事由

信託法56条1項は、受託者の任務が終わる事由を並べています。
- 受託者である個人の死亡
- 受託者である個人が後見開始または保佐開始の審判を受けたこと
- 受託者が破産手続開始の決定を受けたこと
- 受託者である法人が、合併以外の理由で解散したこと
- 受託者の辞任(57条)
- 受託者の解任(58条)
- 信託行為(信託契約や遺言)で定めた事由
このうち、後見開始・保佐開始と破産は、信託行為に別段の定めがあれば、その定めが優先します。死亡は、定めで変えられない事由として並んでいます。
「務められなくなったとき」の中心は、受託者が認知症などで後見開始の審判を受ける場合です。この場合も、契約に何も書いていなければ任務は終わります。受託者の仕事の内容は受託者がすることの記事で説明しています。この記事は、交代の場面に絞ります。
次の受託者の決まり方

次の受託者(新受託者)の決まり方は、信託法62条にまとまっています。
- 契約に新受託者を指定する定めがある場合: 利害関係人は、指定された人に、期間を決めて就任するかどうかの返事を求められる。期間内に返事がなければ、就任を承諾しなかったものとみなされる(62条2項・3項)。
- 定めがない場合、または指定された人が引き受けない場合: 委託者と受益者が、合意で新受託者を選ぶ(62条1項)。
- 話し合いがまとまらない場合: 利害関係人の申立てで、裁判所が選ぶ(62条4項)。
委託者がすでにいないときは、受益者が選びます(62条8項)。家族信託では、親が委託者であり受益者でもある形が多いため、親が亡くなったあとは、信託の終了や相続の話と重なります。この組み合わせは家族信託と遺言を組み合わせるの記事にあります。
新受託者がまだいない間は、裁判所が信託財産管理者による管理を命じることがあります(63条・64条)。利害関係人の申立てが必要です。
引き継ぎまでの間は誰が守るか

受託者が亡くなったあと、新受託者が決まるまでの間は、信託法60条が前の受託者の相続人に義務を課しています。
- 相続人は、受託者の任務が終わった事実を知ったら、知れている受益者に通知する。
- 新受託者が信託事務を処理できるようになるまで、信託財産を保管し、引き継ぎに必要な行為をする。
相続人が信託財産を処分しようとするときは、受益者がやめるよう請求できます。引き継ぎ前の財産は、受託者の相続財産とは別の信託財産です。亡くなった受託者の遺産と、混ぜて扱わないよう気をつけます。
新受託者が就任すると、信託法75条により、前の受託者の任務が終わった時点にさかのぼって、信託に関する権利義務を引き継いだものとみなされます。就任の前に前の受託者がした行為の効力は、そのまま残ります。
契約で後継受託者を決めておく

交代で困らないために、契約の段階で次の点を決めておきます。
- 後継受託者の指名: 氏名と順位。1人が引き受けない場合に備えて、第二候補も書く。
- 就任の条件: 受託者が死亡したときや、後見開始の審判を受けたときに、自動的に就任するのか、承諾の手続きを置くのか。
- 終了事由の扱い: 後見開始や保佐開始があった場合に、任務を終わらせるか続けるか(56条1項ただし書)。
- 引き継ぎの方法: 財産の目録、通帳、鍵、書類を誰に、どの順で渡すか。
指名した人が実際に就任できるかは、その時の年齢や健康に左右されます。親の世代の受託者は、子の世代の候補を置くことが多いです。具体的な文言は、専門家に作ってもらいます。信託の全体像は家族信託とはで説明しています。
信託口口座と不動産登記の変更

受託者が替わると、信託財産の名義も新受託者に変わります。
不動産の登記は、不動産登記法100条に特則があります。受託者の任務が死亡などで終わり、新たに受託者が選任されたときは、受託者の変更による権利の移転の登記を、新しい受託者が単独で申請できます。このとき登記官は、信託の変更の登記を職権でします(同法101条)。ほかの登記事項に変更があったときは、受託者が遅れずに信託の変更の登記を申請します(103条)。書類や費用は、不動産を管轄する法務局か司法書士に確かめます。
信託口口座は、金融機関の規定で扱いが決まります。ある信用金庫が公開している「民事信託預金に関する特約規定」には、次の定めがあります。
- 受託者の死亡、後見開始、辞任、解任などで任務が終わり、後継受託者が選任されたら、口座の名義人を後継受託者に変更する。
- 後継受託者は、所定の書式で届け出て、受託者が変更されたことを示す書類を見せる。
- 受託者に金融機関への債務があるときは、後継受託者がそれを引き受けることを確かめてから名義を変える。
これは一つの金融機関の例です。口座を開いた金融機関ごとに、必要な書類と順番が違います。受託者が元気なうちに、その金融機関に、交代のときの手続きを聞いておきます。信託口口座を開く流れは家族信託の始め方にあります。
出典
- 信託法 第56条・第57条・第58条・第60条・第62条〜第64条・第75条・第163条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- 不動産登記法 第100条〜第103条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- ある信用金庫が公開する「民事信託預金に関する特約規定」(PDF。本文に金庫名の記載はありません) https://www.shinkin.co.jp/chunan/policy/data/33minjitokuyaku.pdf
いずれも2026年11月4日に確認しました。