家族信託の手引き

受益者連続型信託で家を代々つなぐ 信託法91条の30年と相続税・遺留分

内容の確認日: 2026年11月4日

受益者連続型信託は、家の持ち主を一人ずつ順に指定できる信託です。ただし信託法91条により、設定から30年を過ぎたあとに受益権を取得した受益者がいると、順番の定めはその人の死亡か受益権の消滅までしか効力がありません。何代も先まで固定できる仕組みではありません。

税金は相続税法9条の3の特例で、受益期間の制限などの制約がないものとして評価されます。遺留分との関係は、信託法に直接の定めが見当たりません。この記事は一般的な情報です。個別の判断は弁護士・司法書士・税理士などの専門家にご相談ください。内容は2026年11月4日に確認しました。

受益者連続型信託とは 91条の「30年」

宮古島に残る古い木造の建物
写真: aco pbc / CC0(Wikimedia Commons)

信託では、財産から利益を受ける人を受益者と呼びます。受益者連続型信託は、受益者が亡くなったら次の人が受益権を得る、と信託契約で順に定めておく形です。たとえば「最初は妻、妻の死後は長男、長男の死後は孫」という指定です。

信託法91条は、この定めのある信託について、次のように決めています。

  • 受益者の死亡で受益権が消える。他の者が新たに受益権を取得する。この定めのある信託が対象です。
  • 信託がされた時から30年を経過した時以後に、現に存する受益者がその定めで受益権を取得したとします。この場合、定めの効力はその受益者が死亡するまで、または受益権が消滅するまで続きます。

つまり30年は「信託を何年続けられるか」の上限そのものではありません。30年を過ぎてから新しく受益権を得た受益者が、定めの最後の一人になります。その人が亡くなったあと、さらに次の受益者へ移す定めは、効力が及びません。

条文の読み方の一例を挙げます。2026年に信託を始めたとします。2056年以後に受益権を取得した受益者がいれば、その人が亡くなるまで有効です。次の人への移転は、その時点で止まります。実際の設計では、この線がどこに来るかを専門家と一緒に確かめます。

家を代々つなぐ設計で決めておくこと

瓦屋根の木造住宅が2棟並ぶ庭
写真: lumoplank / CC0(Wikimedia Commons)

順番を決めるだけでは足りません。次の点を信託契約に書きます。

  • 受益者の順番。人数が増えるほど、亡くなる順序や先に亡くなる場合の定めが要ります。
  • 受託者と、その次の受託者。受託者の仕事は受託者がすることに書きました。30年を超える期間では、受託者が交代する場面が出てきます。
  • 信託が終わる事由と、終わったときに残る家を誰に渡すか。信託法182条は、残余財産を受け取る人を信託行為で定めるとしています。定めがないと、委託者またはその相続人が帰属権利者とみなされます。詳しくは遺言との組み合わせで扱いました。

家が不動産の場合は、信託の登記も関わります。不動産登記法97条は、登記事項として委託者・受託者・受益者の氏名と住所、受益者の指定に関する条件、信託の目的、信託の終了の事由などを挙げています。受益者を定める方法の定めがあれば、その定めを登記します。

信託の始め方と費用は、始め方の記事と費用の記事を見てください。

税金の扱い 相続税法9条の3

江戸川北税務署の庁舎
写真: Higa4 / CC0(Wikimedia Commons)

受益者連続型信託には、相続税法9条の3の特例があります。受益者が適正な対価を負担せずに権利を取得したときは、受益期間の制限など権利の価値に作用する制約は付されていないものとみなされます。たとえば、受益者が次の人に移る前提で期間が限られていても、その分を安く見積もることはしません。ただし、権利を持つのが法人の場合は、この特例に当たりません。

国税庁の相続税法基本通達9の3-1は、例を示しています。

  • 権利の全部を適正な対価を負担せず取得した場合は、信託財産の全部の価額。
  • 受益権が収益と元本に分かれた信託で、収益受益権の全部を適正な対価なく取得した場合は、信託財産の全部の価額。
  • 同じ形の信託で、元本受益権の全部を適正な対価なく取得した場合は零。ただし、対応する収益受益権を持つのが法人でこの特例の本文が適用されない場合や、その受益者等が存しない場合などは除かれます。

元本受益権が零でも、信託が終わって残余財産を取得したときは、相続税法9条の2第4項の適用があります。国税庁のタックスアンサーNo.4427は、適正な対価を負担せずに受益権を取得したときは贈与税が課されると案内しています。

毎年の届出や計算書は税金の記事にあります。評価額や税額は信託の組み方で変わります。税理士に試算を頼んでください。

遺留分とどう関わるか

宇都宮家庭裁判所の庁舎
写真: Miyuki Meinaka / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

遺留分は、一定の相続人が最低限受け取れる取り分です。民法1042条は、兄弟姉妹以外の相続人の遺留分を定めています。直系尊属だけが相続人なら財産の3分の1、それ以外は2分の1です。複数の相続人がいれば、さらに各自の相続分をかけます。

民法1046条は、遺留分権利者が受遺者または受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できるとしています。

では、家を信託に入れて順に受益者を決めた場合に、この請求がどう扱われるか。e-Govで信託法の条文を検索したところ、「遺留分」の語は出てきませんでした。信託と遺留分の関係を直接決める条文は、信託法の側にはないということです。裁判所の判断や学説の整理を、この記事では確かめられていません。そのため断定は避けます。

実務の面では、次の点を先に話し合うと、後の争いを減らせます。

  • 子や配偶者など、遺留分を持つ人がほかにいるか。
  • 家以外に、その人たちへ渡せる財産があるか。
  • 信託の内容を、生前に家族へ説明しておくか。

遺留分を含む相続の見通しは、弁護士に相談します。信託の形でできないことはできないことの記事も参考になります。

相談先と準備するもの

カバーを外した旧式のハードディスク
写真: Zzubnik / パブリックドメイン(Wikimedia Commons)

相談できるのは、信託に詳しい司法書士・弁護士・税理士・行政書士です。登記は司法書士、遺留分や紛争は弁護士、税金は税理士が受け持つ分野です。職種ごとの得意分野は事務所によって違うため、最初に何を頼めるかを聞きます。

面談の前に、次を手元に置くと話が早く進みます。

  • 家の登記事項証明書と固定資産税の通知書。
  • 家族の関係が分かる図(誰が何歳か)。
  • 家をその後も残したい理由と、売却を認めるかどうかの考え。

30年という線があるため、家を何代も先まで同じ形で残す設計は、別の手段との組み合わせで考えることになります。遺言や生前の贈与と比べながら、家族に合う形を決めてください。

出典

いずれも2026年11月4日に確認しました。

あわせて読む