家族信託と遺言を組み合わせる 信託の終了と残りの財産の行き先
家族信託と遺言は、どちらか一方を選ぶものではなく、財産ごとに役割を分けて組み合わせられます。信託に入れた財産は信託契約のルールで動き、信託に入れなかった財産は遺言(遺言がなければ法定相続)で承継されます。
組み合わせるときに決めておくのは、信託が終わったときに残る財産を誰に渡すかです。信託法182条が、その帰属の順序を定めています。この記事は一般的な情報です。個別の判断は司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。内容は2026年11月4日に確認しました。
信託に入れる財産と、遺言で決める財産
家族信託は、親が決めた財産を、子などの受託者に託して管理や処分をしてもらう仕組みです。信託した財産は信託契約で決めた目的と順序に従って動きます。信託に入れなかった財産には、信託契約の効力は及びません。

表は左右に動かして読めます。
| 財産の例 | 決める場所 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 信託した自宅・賃貸アパート・預金 | 信託契約(受益者・帰属先の定め) | 信託法 |
| 信託に入れなかった預貯金・有価証券・動産 | 遺言(なければ法定相続) | 民法 |
| 信託が終わったあとに残る財産 | 信託契約の帰属権利者などの定め | 信託法182条 |
信託に入れる財産は、全財産である必要はありません。自宅や賃貸物件など、認知症で動かせなくなると困るものを中心に選ぶ例が多くあります。残りの財産と、信託に入れ忘れた財産は、遺言で受け皿を作ります。
成年後見や遺言との基本的な違いは、成年後見・任意後見・遺言の違いの記事で説明しています。この記事は、組み合わせ方に絞ります。
信託に入れない財産は遺言で決める
遺言は、民法の定める方式に従わないと有効になりません(民法960条)。自分で書く遺言の場合は、法務局で保管する制度があります。法務省のページでは「預けて安心」と紹介され、遺言者の死亡後に、指定した人へ遺言書が保管されていることを通知する仕組みもあります。手数料などの詳細は、法務省のページで確かめます。

遺言を作るときに押さえたい点は次のとおりです。
- 信託した財産について、遺言で別の人に渡す内容を書いても、信託契約と食い違う。信託財産の行き先は、信託契約のほうで決める。
- 信託に入れていない財産を、遺言の対象として具体的に書く。「その他一切の財産」を誰に渡すかも書いておくと、取りこぼしを防げる。
- 後から預金や不動産を買い足したときに、信託に追加するのか遺言に書くのかを決め直す。
信託契約と遺言を別々の専門家に頼むと、内容が食い違うおそれがあります。作る順番や、どの財産がどちらに入るかの一覧は、同じ専門家のもとでそろえておくと安全です。
信託が終わるときと、残りの財産の行き先
信託は、いつまでも続くわけではありません。信託法163条は終了する場合を挙げています。主なものは次のとおりです。

- 信託の目的を達成したとき、または達成できなくなったとき。
- 受託者が受益権の全部を自分で持つ状態が1年間続いたとき。
- 受託者がいなくなり、新しい受託者が就任しない状態が1年間続いたとき。
- 信託契約で定めた事由が生じたとき(たとえば「受益者である親が亡くなったとき」と定めておく)。
このほか、委託者と受益者はいつでも合意で信託を終了できます(164条1項)。ただし、信託契約に別の定めがあればそれに従い、委託者がいない場合はこの規定は使えません。
終了すると清算に入ります(175条)。清算を行う受託者は、現務の結了、債権の取立てと債務の弁済、残余財産の給付を行います(177条)。残った財産が残余財産で、その帰属先は182条が次の順に定めています。
- 信託契約で、残余財産受益者または帰属権利者として指定された人(182条1項)。
- 定めがない場合、または指定された人が全員権利を放棄した場合は、委託者またはその相続人などが帰属権利者に指定されたものとみなす(同条2項)。
- それでも決まらないときは、清算受託者に帰属する(同条3項)。
つまり、帰属先を契約に書かないと、残った財産は委託者の側に戻る扱いになります。親の死亡で信託が終わる契約にした場合、自宅が最後に誰のものになるかは、契約の中で決めておくのが基本です。帰属先は、遺言で財産の行き先を決めるときと同じく、家族の希望を聞いて決めます。
遺言代用信託と信託法90条
信託契約で、委託者が亡くなったときに受益権を取得する人を決めておく方法があります。遺言代用信託と呼ばれる形で、信託法90条が特例を定めています。対象は次の2つです。

- 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託。
- 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託。
この場合、条文は次のように定めています。
- 委託者は、受益者を変更する権利を持つ。ただし、信託契約に別の定めがあればそれに従う(90条1項)。
- 後者の受益者は、委託者が死亡するまで受益者としての権利を持たない。これも別の定めがあればそれに従う(同条2項)。
遺言は、書き直すことで内容を変えられます。遺言代用信託も、契約の定めに従って受益者を変えられるのが特徴です。ただし、契約に別の定めを置くと、この変更権がなくなることもあります。契約の文言をよく確かめます。
遺言代用信託の相続税の扱いは、国税庁の案内で確かめます。贈与税や信託に関する毎年の届出は、税金の記事にまとめました。
組み合わせの決め方と、相談する順番
組み合わせを決めるときは、次の順で整理すると抜けが少なくなります。

- 財産の一覧を作り、信託に入れるものと入れないものに分ける。
- 信託に入れるものは、受益者(親)、親が亡くなったあとの受益者、信託の終了の事由、残余財産の帰属先を決める。
- 信託に入れないものと、入れ忘れ対策を遺言に書く。
- 信託契約と遺言を並べて読み、食い違いがないかを確かめる。
- 信託契約は公正証書にするなど、契約の形を専門家と決める。手続きの流れは家族信託の始め方の記事にあります。
家族の状況や財産は、数年のうちに変わります。預金の増減、不動産の買い替え、家族の入院や死亡などがあったら、信託契約と遺言を一緒に見直します。見直しの時期を、年に1回の財産の整理と同じ時期にそろえておくと忘れにくくなります。
契約後の受託者の仕事は受託者がすることの記事で説明しています。専門家に相談する前に、財産の一覧と家族の希望をメモにまとめておくと、話が早く進みます。
出典
- e-Gov法令検索「信託法」(平成18年法律第108号) 第90条・163条・164条・175条・177条・182条 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- e-Gov法令検索「民法」第960条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
いずれも2026年11月4日に確認しました。